大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成11年(ワ)4602号 判決 2000年9月13日

反訴原告

草場泉

ほか一名

反訴被告

田坂章一

主文

一  反訴被告は、反訴原告草場泉に対し、金三五〇万九八六〇円及びうち金三二〇万九八六〇円に対する平成九年二月一四日から、うち金三〇万円に対する平成一一年六月六日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴被告は、反訴原告日村三枝子に対し、金一〇六五万七七九一円及びうち金九七五万七七九一円に対する平成九年二月一四日から、うち金九〇万円に対する平成一一年六月六日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  反訴原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を反訴被告の、その余を反訴原告らの負担とする。

五  この判決は、一、二項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  反訴被告は、反訴原告草場泉に対し、金二八六八万四〇八九円及びうち金二六〇八万四〇八九円に対する平成九年二月一四日から、うち金二六〇万円に対する平成一一年六月六日(反訴状送達の日の翌日)から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴被告は、反訴原告日村三枝子に対し、金三四一七万九六二二円及びうち金三一〇七万九六二二円に対する平成九年二月一四日から、うち金三一〇万円に対する平成一一年六月六日(反訴状送達の日の翌日)から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1(本件事故)

(一)  日時 平成九年二月一四日午前一時二八分ころ

(二)  場所 大阪府吹田市豊津町一六番先(国道四七九号線)

(三)  加害車両 反訴被告運転の普通乗用自動車(大阪三四さ三三六五)

(四)  被害車両 反訴原告草場泉(昭和二七年一二月九日生、当時四四歳)(以下「反訴原告草場」という。)運転、反訴原告日村三枝子(昭和三一年八月一九日生、当時四〇歳)(以下「反訴原告日村」という。)同乗の普通貨物自動車(なにわ四〇ね九一〇三)

(五)  態様 加害車両が停車中の被害車両に追突し、更に被害車両の前に停車していた車両に玉突き追突させ、その結果、反訴原告らが負傷し、被害車両が破損したもの

2 (責任)

本件事故は、反訴被告の前方不注視の過失により発生したものであるから、反訴被告は民法七〇九条に基づく損害賠償責任がある。

3 (損害填補)

(一)  反訴原告草場 一一一五万二三八七円

(二)  反訴原告日村 一〇八四万七六五九円

二  争点

1  傷害、治療経過

(一) 反訴原告草場

(1) 傷害

左肋骨骨折、頸椎捻挫、左下腿挫創、左下腿打撲、頭部顔面打撲、腰部・右肩・左側胸部打撲、頭部外傷Ⅱ型、腰椎分離症、腰椎椎間板ヘルニア、右坐骨神経痛、不安神経症

(2) 治療経過

<1> 市立吹田市民病院

平成九年二月一四日通院

<2> 医療法人純幸会豊中渡辺病院

平成九年二月一四日から平成一〇年七月三一日まで通院(実通院日数四一五日)

<3> 財団法人大阪脳神経外科病院

平成九年三月四日から同年五月三一日まで通院(実通院日数五日)

<4> 医療法人北斗会さわ病院

平成九年九月二二日及び平成一〇年四月二三日から同年七月三一日まで通院(実通院日数九日)

<5> 山崎眼科

平成九年四月二二日通院

(二) 反訴原告日村

(1) 傷害

左脛骨膝顆間部骨折、左前腕左下腿膝打撲、頭部外傷、頭部打撲、腰部打撲、頸椎捻挫、右膝左下腿挫創、左膝靱帯剥離骨折、心的外傷後ストレス障害

(2) 治療経過

<1> 市立吹田市民病院

平成九年二月一四日通院

<2> 豊中渡辺病院

平成九年二月一七日から同年六月三日まで入院一〇七日間

平成九年二月一四日、同月一五日及び同年六月四日から平成一〇年七月三一日まで通院(実通院日数三四三日)

<3> さわ病院

平成九年三月二二日、同年六月一二日、同年七月三日及び平成一〇年四月二三日から同年七月三一日まで通院(実通院日数一二日)

2  後遺障害

(一) 反訴原告草場

(1) 症状固定日 平成一〇年七月三一日

(反訴被告・本件事故後六か月程度で症状固定したものである。)

(2) 頸椎捻挫、椎間板突出、不安神経症 一二級

(反訴被告・自動車保険料率算定会の認定は、頸部神経症状一四級一〇号、腰部神経症状一四級一〇号の併合一四級である。)

(二) 反訴原告日村

(1) 症状固定日 平成一〇年七月三一日

(反訴被告・平成一〇年四月には症状固定に至っている。)

(2) 左膝靱帯の剥離骨折による左膝の後方不安定性、心因的外傷症候群一〇級

(反訴被告・自動車保険料率算定会の認定は、左膝関節の著しい神経症状一二級一二号である。)

3  損害

(一) 反訴原告草場

(1) 治療費 二八七万八七二九円

<1> 市立吹田市民病院 五万七二五五円

<2> 豊中渡辺病院 二五〇万一九九〇円

<3> 大阪脳神経外科病院 一三万九八七〇円

<4> さわ病院 一六万四八八四円

<5> 山崎眼科 一万四七三〇円

(2) 入通院慰謝料 一四三万円

(3) 通院交通費 五一万〇五六〇円

<1> タクシー代 三五万〇四〇〇円

本件事故日から約二か月間は歩行困難であり、タクシーを利用せざるを得なかった。

4800円×1日+9600円×36日=35万0400円

<2> 電車代 一六万〇一六〇円

自宅最寄りの阪急上新庄駅から豊中渡辺病院最寄りの阪急服部駅まで

220円×2×364日=16万0160円

(4) 休業損害 一一七三万五五九四円

収入日額 二万二〇一八円

休業日数 平成九年二月一四日から平成一〇年七月三一日までの五三三日間

(反訴被告・七六四万〇二四六円の限度で認める。)

(5) 物損 三七万七二五五円

<1> 中古車両購入費 三四万八二五五円

<2> 着衣 六〇〇〇円

<3> 眼鏡 二万三〇〇〇円

(6) 逸失利益 一六四〇万四三三八円

年収 八〇三万六六一五円

就労可能年数 二二年(新ホフマン係数一四・五八〇)

労働能力喪失率 一四パーセント

803万6615円×0.14×14.580=1640万4338円

(7) 後遺障害慰謝料 二四〇万円

(8) 一宮町横山地区における町興しプロジェクト中止に関する損害 一五〇万円

<1> 実損設計料 五〇万円

<2> 精神的損害 一〇〇万円

右プロジェクトは、平成八年二月ころから、一宮町の残土処理場の有効利用のために、一宮町及び地元業者らとの間で立ち上げられたもので、反訴原告草場は、一宮町の横山地区について、その全体構想企画から任されることになった。

平成八年五月ころ、反訴原告草場は、株式会社浜田建築設計事務所に全体構想の設計その他を依頼し、右事務所は、設計等に着手して作業を進め、同年一二月ころに作業が完了した。

右プロジェクトの中で、反訴原告草場は、全体の企画だけではなく、自ら経営する店を改装して、地元の若者らを調理師として受け入れて育成するという役割も担っていた。

平成九年一月一八日ころには、地元一宮町の町長、助役その他県議会議員らと打ち合わせ及びレセプションを行い、反訴原告草場が、平成九年二月一六日までに予算確保の具体的な準備を整えることとなり、日夜奔走していた。

ところが、本件事故が発生し、反訴原告草場は、就労不能の状態に陥った。

しばらく右プロジェクトの進行を延期してもらっていたものの、反訴原告草場がプロジェクトを遂行できるような状態に回復する見込みもなかったので、計画を中止せざるを得なくなった。

(9) 以上合計三七二三万六四七六円(既払金八九七万九八〇四円、二一七万二五八三円)

(10) 弁護士費用 二六〇万円

(二) 反訴原告日村

(1) 治療費 五二六万一九九九円

<1> 市立吹田市民病院 四万一八九五円

<2> 豊中渡辺病院 四九八万六九三三円

<3> さわ病院 二三万三一七一円

(2) 入院雑費 一六万〇五〇〇円

1500円×107日=16万0500円

(3) 入通院慰謝料 二〇〇万円

(4) 装具代(膝固定用) 四万三二五〇円

(5) 休業損害 七三一万二七六〇円

収入日額 一万三七二〇円

休業日数 平成九年二月一四日から平成一〇年七月三一日の五三三日間

(反訴被告・五九二万七〇四〇円の限度で認める。)

(6) 物損(着衣) 六〇〇〇円

(7) 逸失利益 二一八四万二七七二円

年収 四九三万九二〇〇円

就労可能年数 二六年(新ホフマン係数一六・三七九)

労働能力喪失率 二七パーセント

493万9200円×0.27×16.379=2184万2772円

(8) 後遺障害慰謝料 四八〇万円

(9) 一宮町横山地区における町興しプロジェクト中止に関する精神的損害 五〇万円

(10) 以上合計四一九二万七二八一円(既払金六三四万三六八〇円、四五〇万三九七九円)

(11) 弁護士費用 三一〇万円

第三判断

一  争点1(傷害、治療経過)

1  反訴原告草場

証拠(甲三ないし六、二四、乙一)によれば、次の事実が認められる。

(一) 傷害

左肋骨骨折、頸椎捻挫、左下腿挫創、左下腿打撲、頭部顔面打撲、腰部・右肩・左側胸部打撲、頭部外傷Ⅱ型

(二) 治療経過

(1) 市立吹田市民病院

平成九年二月一四日通院

診断名 頭部・顔面・胸部打撲、左下腿打撲

(2) 豊中渡辺病院

平成九年二月一四日から平成一〇年七月三一日まで通院(実通院日数四一五日)

診断名 左肋骨骨折、頸椎捻挫、左下腿挫創、頭部打撲、腰部・右肩・左側胸部打撲

右にてリハビリテーション治療を受けた。

(3) 大阪脳神経外科病院

平成九年三月四日、同月二一日、同月二五日、同年四月一五日、同年五月六日通院

診断名 頭部外傷(脳震盪)、頸椎捻挫

(4) さわ病院

平成九年九月二二日通院

診断名 腰椎分離症、右鎖骨神経痛

検査のため受診した。

以上の事実が認められる。

(三) なお、反訴原告草場は、平成一〇年四月二三日から不安神経症の診断名でさわ病院の通院を開始しているが、それ以前の豊中渡辺病院においては、右症状を認め得ず、本件事故との間に相当因果関係を認めるには至らない。

2  反訴原告日村

証拠(甲九、一〇、二五ないし二七、乙六)によれば、次の事実が認められる。

(一) 傷害

左脛骨膝顆間部骨折、左前腕左下腿膝打撲、頭部外傷、頭部打撲、腰部打撲、頸椎捻挫、右膝左下腿挫創、左膝靱帯剥離骨折

(二) 治療経過

(1) 市立吹田市民病院

平成九年二月一四日通院

診断名 右前腕・左下腿・膝打撲、左胸部打撲

(2) 豊中渡辺病院

平成九年二月一七日から同年六月三日まで入院一〇七日間

安静加療のため入院し、リハビリテーション治療を受けた。

平成九年二月一四日から同月一五日まで及び同年六月四日から平成一〇年七月三一日まで通院(実通院日数三四三日)

診断名 左脛骨・膝関節骨折、頭部外傷、腰部打撲、頸椎捻挫

(3) さわ病院

平成九年三月二二日通院

診断名 頸椎捻挫

検査のため受診した。

以上の事実が認められる。

(三) なお、反訴原告日村は、平成九年七月三日さわ病院において心的外傷後ストレス障害と診断され、平成一〇年四月二三日からさわ病院において右の治療を受けているが、本件事故による負傷は激烈なものとまではいえず、豊中渡辺病院での治療も安静及びリハビリテーションであったもので、本件事故により心的外傷後ストレス障害が発生したものというには疑問があり、少なくとも本件事故による損害賠償として右を独立して取り上げることは困難である。

二  争点2(後遺障害)

1  反訴原告草場

証拠(甲一六、一八、乙一)によれば、反訴原告草場の傷害は平成一〇年七月三一日症状固定し、頸部の神経症状一四級一〇号及び腰部の神経症状一四級一〇号の併合一四級に該当する後遺障害が残ったことが認められる。

反訴原告草場について、右等級を超える後遺障害を認めるに足りる証拠はない。

なお、反訴原告草場の症状は、平成一〇年四月以降特に変化はないようにもみられるが、右以降も頻回に受診し治療も継続していたものであるから、症状固定日としては、主治医の診断のとおり平成一〇年七月三一日とするのが相当である。

2  反訴原告日村

証拠(甲一七、一九、乙六)によれば、反訴原告日村の傷害は平成一〇年七月三一日症状固定し、左膝関節の著しい神経症状(後遺障害等級一二級一二号該当)が残ったことが認められる。

反訴原告日村について、右等級を超える後遺障害を認めるに足りる証拠はない。

なお、反訴原告日村の症状は、平成一〇年四月以降特に変化はないようにもみられるが、右以降も頻回に受診し治療も継続していたものであるから、症状固定日としては、主治医の診断のとおり平成一〇年七月三一日とするのが相当である。

三  争点3(損害)

1  反訴原告草場

(一) 治療費 二七五万一四二九円

(1) 市立吹田市民病院 五万七二五五円(甲三)

(2) 豊中渡辺病院 二五〇万一九九〇円(甲四)

(3) 大阪脳神経外科病院 一三万九八七〇円(甲五)

(4) さわ病院 五万二三一四円(甲六)

(二) 入通院慰謝料 一三五万円

反訴原告草場の傷害の部位、程度及び通院状況からすると、通院慰謝料は一三五万円と認めるのが相当である。

(三) 通院交通費 一八万七四〇〇円

4800円+220円×2×415日=18万7400円

(四) 休業損害 七六四万〇二四六円

反訴原告草場の傷害の部位及び通院状況並びに後遺障害の程度からすると、休業損害は反訴被告の認める七六四万〇二四六円を超えることはない。

(五) 物損 一〇万円

証拠(乙一五の1ないし4、一六の1ないし6、反訴原告草場本人、弁論の全趣旨)によれば、被害車両、反訴原告草場の着衣、眼鏡が破損したことが認められるが、この損害額を認めるに足りる的確な証拠はなく、右については一〇万円の限度で損害と認めるのが相当である。

(六) 逸失利益 一四三万三一七二円

証拠(乙一九、二一、反訴原告草場本人)によれば、反訴原告草場はベルエポックの名称で飲食業を営んでおり、平成九年賃金センサス男子労働者の四〇ないし四四歳の平均賃金年六六二万〇五〇〇円の収入をあげ得たものと認められるから、反訴原告草場の後遺障害の内容、程度からして労働能力喪失率五パーセント、喪失期間五年(ライプニッツ係数四・三二九五)としてその逸失利益を算定するのが相当であり、すると、一四三万三一七二円となる。

662万0500円×0.05×4.3295=143万3172円

(七) 後遺障害慰謝料 九〇万円

反訴原告草場の後遺障害の程度からすると、後遺障害慰謝料は九〇万円とするのが相当である。

(八) 一宮町横山地区における町興しプロジェクト中止に関する損害

本件事故との間に相当因果関係を認めることはできない。

(九) 以上を合計すると一四三六万二二四七円となる。

(一〇) 損害填補

既払金一一一五万二三八七円を控除すると、三二〇万九八六〇円となる。

(一一) 弁護士費用 三〇万円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は三〇万円と認めるのが相当である。

2  反訴原告日村

(一) 治療費 五〇七万九五九八円

(1) 市立吹田市民病院 四万一八九五円(甲九)

(2) 豊中渡辺病院 四九八万六九三三円(甲一〇)

(3) さわ病院 五万〇七七〇円(甲一一)

(二) 入院雑費 一三万九一〇〇円

1300円×107日=13万9100円

(三) 入通院慰謝料 一七〇万円

反訴原告日村の傷害の部位、程度及び通院状況からすると、通院慰謝料は一七〇万円と認めるのが相当である。

(四) 装具代(膝固定用) 二万〇二五〇円(弁論の全趣旨)

(五) 休業損害 五九二万七〇四〇円

反訴原告日村の傷害の部位及び入通院状況並びに後遺障害の程度からすると、休業損害は反訴被告の認める五九二万七〇四〇円を超えることはない。

(六) 物損(着衣)

損害を認めるに足りる証拠がない。

(七) 逸失利益 五三三万九四六二円

証拠(乙一九、二一、反訴原告草場本人、反訴原告日村本人)によれば、反訴原告日村は前記ベルエポックの従業員として働き四九三万九二〇〇円の収入を得ていたことが認められるから、反訴原告日村の後遺障害の内容、程度からして労働能力喪失率一四パーセント、喪失期間一〇年(ライプニッツ係数七・七二一七)としてその逸失利益を算定するのが相当であり、すると、五三三万九四六二円となる。

493万9200円×0.14×7.7217=533万9462円

(八) 後遺障害慰謝料 二四〇万円

反訴原告日村の後遺障害の程度からすると、後遺障害慰謝料は二四〇万円とするのが相当である。

(九) 一宮町横山地区における町興しプロジェクト中止に関する精神的損害

本件事故との間に相当因果関係を認めることはできない。

(一〇) 以上を合計すると二〇六〇万五四五〇円となる。

(一一) 損害填補

既払金一〇八四万七六五九円を控除すると、九七五万七七九一円となる。

(一二) 弁護士費用 九〇万円

四  よって、反訴原告らの請求は、次の支払を求める限度で理由がある。

1  反訴原告草場泉 三五〇万九八六〇円及び弁護訴訟費用を除く三二〇万九八六〇円に対する平成九年二月一四日から、弁護士費用三〇万円に対する反訴状送達の日の翌日である平成一一年六月六日(記録上明らかである。)から、各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金

2  反訴原告日村三枝子 一〇六五万七七九一円及び弁護士費用を除く九七五万七七九一円に対する平成九年二月一四日から、弁護士費用九〇万円に対する反訴状送達の日の翌日である平成一一年六月六日から、各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金

(裁判官 吉波佳希)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例